沖縄県うるま市石川で純沖縄県産のブランド黒毛和牛「山城牛(やましろぎゅう)」を生産する「山城畜産」は、A5〜A4ランクの肉用牛を安定的に生産する技術で県内屈指の実力を誇る農家。あっさりクセのない味わいと肉質の柔らかさに定評があり、品評会でも数々の賞を受賞しています。
肉質のよさが口コミで広がりブランド牛に。山城畜産が手がける「山城牛」とは
今回ご紹介するのは沖縄県うるま市で生産されている我らが「山城牛」ですっ! 山城牛はほどよくサシが入ったA5〜A4ランクの黒毛和牛。そのおいしさが地元沖縄の消費者の間で評判を呼び、これまでは出荷された肉のほとんどが沖縄県内のみで流通してきました。
現在はステーキ用のサーロインや焼肉用カルビ、切り落としなどが、うるま市のふるさと納税の返礼品になっているほか、人気の部位はうるマルシェの直売所やネット通販でも手に入れることができます。
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山城牛のステーキは、うるマルシェの産直レストラン「うるま市民食堂」の人気メニューでもあり、もちろん、うるマルシェスタッフも絶讃太鼓判! うるま市自慢の地産ブランド牛、それが「山城牛」なのです!
…と、ちょっと興奮が過ぎた感がなきにしもあらずですが(汗)、そんな山城牛の「おいしさの秘密を知りたい!」と、今回は山城畜産におじゃまさま。代表の山城善市さんにお話を聞きました。
「いやね、1991年に沖縄県内で高級食材を販売する小売店がうちの肉を扱ってくれるようになってね。だんだんファンがついて、みんなが『山城牛』って呼ぶようになったわけ。ブランド牛として商標登録したのは5年前くらいだったかな〜。つい最近のことよ(笑)」
と、めちゃめちゃユルッとブランド誕生秘話を教えてくれた善市父さん。その気さくな笑顔と飾らない人柄に気がゆるんだところで、さっそく牛舎を案内してもらうことにしましょう。
沖縄生まれ沖縄育ちのブランド和牛を枝肉で出荷するこだわり
沖縄本島中部、うるま市郊外の石川山城地区。山城畜産は風通しのよい高台の約4,000坪の敷地に牛舎を構えています。常時約250頭の肥育牛(食肉用に出荷する成牛)を育て、年間150頭ほどを出荷。
うち約45%がA5ランクで、A5〜A4ランクの出荷割合が全体の90%を占めるそう。沖縄県のA5ランク牛の出荷量は肥育牛全体の約30%ということなので、その技術は沖縄県内でもトップクラスといえるでしょう。
意外と知られていないかもしれませんが、肉用牛の生産は沖縄県の主要産業のひとつで、農業総算出額の20%、畜産業全体の44%ほどの割合を占めています。なかでも盛んなのが子牛の生産。沖縄県は全国第4位の子牛生産地なのです。
ちなみに2021年に沖縄県内の家畜市場で取引された肉用子牛(黒毛和種)は2万5000頭だそうですが、うち9割は県外に出荷され、日本各地の有名ブランド牛として肥育されています。
子牛の繁殖農家が多数を占める沖縄で、肥育農家としてのノウハウを積み上げてきた山城畜産は長年、「沖縄で生まれた沖縄ならではの血統の牛を沖縄の地で育てること」に挑んできました。
「県外の有名ブランドに引けをとらないおいしい牛肉を作り、地元沖縄のひとに食べてほしいという思いがずっとある」と、善市父さんはいいます。
その表れのひとつが生体をセリに出すのではなく、肉質が顕著にわかる枝肉で出荷していること。これは、いい肉づくりを追求しているという自信があってこそできることです。
山城畜産は、「おきなわ和牛共励会優秀賞(2013)」「沖縄県畜産共進会農林水産省畜産局長賞(2018)」「おきなわ花と食のフェスティバル 畜産部門 沖縄県農林漁業賞(2021)」をはじめとする数々の賞を受賞しています。
山城畜産の牛肉を口にした人たちが、自然と「山城牛」と呼びはじめ、それがやがてブランドになったというのもなんだか納得できる話ではありませんか。
いい肉づくりは「血統3割・エサ3割・環境3割」 残りの1割は…
牛舎を見学させてもらって感心したのは、涼しく清潔な環境で、牛たちがのびのびと過ごしていること。
「肥育は血統3割・エサ3割・環境3割と言われていて、長年の経験と目利きで育てやすそうな子牛を見極めて競り落とし、エサでしっかりと健康な体を作り、過ごしやすい環境でひとが手をかけて育てることが基本」なのだそうです。
エサやりは午前と午後の2回。新しい子牛を入れて最初の3ヶ月くらいは、おもに「粗飼料」と呼ばれる麦わらや牧草などの乾燥飼料を与えるそう。
牛には4つの胃がありますが、食欲旺盛で健康な牛を育てるためには、牛が好む粗飼料を厳選し、「ルーメン」という第一の胃袋をしっかりと作ってあげること。エサを食べない時は環境に慣れていないせいなのか、病気なのかを早い段階で見極めることが必要だといいます。
また、子牛は寒さに弱く、成牛は暑さに弱いそうで、牛の成長や体調に合わせて牛が過ごす部屋を変えることもあるそうです。
こちらはとうもろこしやパイナップル粕、米ぬかなどを独自に配合した「濃厚飼料」。牛の成長に合わせ、だんだんと濃厚飼料の割合を増やしていきます。肉質の決め手は、粗飼料と濃厚飼料のバランスなのだそう。
「格付けも大事だけど、近ごろはサシの割合や脂身の味わいなどに気を配ったこだわりの牛肉で勝負する農家が増えている。味のバランスを作るのが一番難しくて、飼料の配合やエサのやり方は、つねに試行錯誤だよ」と、善市父さんはいいます。
さらに山城畜産がこだわっているのは独自に取水している「地下水」。琉球石灰岩の天然のフィルターを通して地下に貯えられている水は、つねに新鮮かつミネラル豊富。安定した肉質を保つのに、この地下水が果たす役割も大きいといいます。
いろいろとお話を聞いてふと気になったのが、肉質を決める残りの1割。善市父さんに訊ねてみたら…「さぁ、なにかね? 俺もわからんさ〜(笑)」って。。
そうは言っても、生き物の世話をする畜産農家には1年365日休みがありません。誰かが休むと、次の日調子が悪くなる繊細な牛もいるそうで、やはり、世話をするひとの肥育にかける情熱や愛情も大きな要素なのではないでしょうか…。
親から子へ、子から孫へ受け継がれてきた牛飼いの誇り
山城畜産では現在、善市父さん、妹のゆかりさん(左)、次男の力也さん(右)が働いているほか、同じく畜産業に携わる三男の拓美さんが助っ人として手伝いに入ることもあるのだとか。
その始業は古く1977年、沖縄市でのこと。沖縄本島中部はもともと闘牛がさかんな地域で、山城家では善市父さんの祖父の代から闘牛の牛を飼っていたそうです。その経験から、善市父さんの父である善行さんが退職金をつぎ込んで肥育経営に乗りだしたのが、山城畜産のはじまりです。
善市父さんも幼い頃から牛に触れて育ち、牛飼い魂を培ってきました。大学で畜産を学んで山城畜産で働きはじめ、父の跡を継いだのが1998年。沖縄市に加えてうるま市の現在の牛舎も増築し、一時は450頭を肥育していたそうですが、飼料や子牛価格の高騰などから肉質重視にシフトし、経営をうるま市の牛舎に1本化。その後もよりより品質の肉づくりへの挑戦は続いています。
牛飼いの血は善市父さんの息子たちにも脈々と受け継がれ、現在は次男の力也さんが肥育の現場を管理しています。
「いい牛を出荷して経営を維持することも大事だけど、山城牛を食べてくれた方に『おいしい』と言ってもらえるのが何よりうれしい」と、力也さんが肥育にかける真摯な姿勢も実直そのもの。2021年、力也さんが育てた牛は沖縄県家畜共進会枝肉部門で優秀1席から3席までを独占したというから、力也さんの実力にも目を見張るものがあります。
おいしい沖縄県産牛を次世代へ繋ぐために繁殖への挑戦も
肥育は出荷までに約40ヶ月と、子牛の繁殖に比べて長い期間がかかります。その間、牛の体調変化につねに神経質になっていないと、手間暇かけて育てた苦労やエサ代などが水の泡になってしまうこともあるので、出荷までのリスクが大きいのです。
和牛の肥育農家が肉質を重視するようになってからは、肥育をやめてしまった高齢者が多く、沖縄本島では肥育農家がずいぶんと減ってしまいました。それでも山城畜産が変わらず「肥育農家」であり続ける理由はなんなのでしょう。
「みんなが作ってくれたブランドだし、息子たちも頑張っているし、最近は繁殖のかたわら、肥育に取り組む若い世代も出てきた。俺がやめるわけにはいかないさ(笑)」と善市父さん。
頼もしい後継者ができたこともあり、山城畜産では2016年から子牛の生産にも取り組みはじたそうです。繁殖農家と交流しながら、試行錯誤で続けてきた子牛生産も次第に軌道に乗りはじめ、2022年に出荷された150頭の肥育牛のうち40頭ほどは、山城畜産で生まれ育った牛とのこと。
伝染病(BSE)、飼料や子牛の高騰、コロナ禍での消費の減少など、記憶に残るだけでも山城畜産はこれまで多くの困難に立ち向かってきました。しかし、高騰を続けるエサ代や子牛価格、上下する枝肉価格といった不安要素はつねにつきもの。変化に強い経営基盤づくりに挑んでいるのです。
肥育に加え、繁殖にも技術を習得する時間やコストがかかるので大変では?と思ったのですが…
「捉え方の違いだけど、肥育農家が繁殖をやっていい牛ができたら、セリで買わずに済んだと思えるからね。なんでもできる畜産農家を目指していくよ」と、あくまでも前向きな善市父さん。
山城牛というブランドを背負い、その未来を見据えて進化を続ける姿勢は「カッコいいぜ〜、山城畜産!」と感じました。そのうち、純うるま市産の新たなブランド牛が生まれるなんてことがあるかも…と勝手に期待が膨らみます。
「もう一口食べたい」「また食べたい」と言ってもらえる肉質をめざしているという山城畜産。脂身のあっさりとした味わいと甘み、クセの少ない柔らかな肉質が人気なのですが、生産者さんおすすめの食べ方が気になりました。
「部位によってもぜんぜん味が違うので、まずは何もつけずに食べてみて、みなさまなりに好みの食べ方をみつけてほしい」とのこと。
さっそく焼き肉用のカルビをいただいてみましたが、個人的にはミルで挽いた岩塩とレモンのシンプルな味付けが一番おいしいと思いました。農家さんの日々のご苦労と命をいただくことに感謝して、ごちそうさまでした!
と…今回、じっくりとお話をうかがったので長々となってしまいましたが、最後まで読んでいただいたみなさまにも感謝です! 山城牛、まだ食べたことがない方はぜひお手に取っていただけると幸いです。